2023/10/10

短編「烏の証明」





『私の作る理想郷────』

『ここでなら、貴方の探しものが見つかるかもしれませんよ? 』


ふと──今になって、そんな言葉を思い出す




惑星バルカズ

多くの資源の眠る、有数の星であり
そのバルカズに作られた理想郷シャンディアは、あらゆる世界の規定/基底を目指し作られた世界だった

だからこそ、強固で頑丈なはずの理想郷……
支配は、当たり前に崩壊していた

惑星バルカズに流れ着いた、渡り鳥/イレギュラーの手によって────


理想郷の崩壊。そんな光景を図々と、愛機のコクピットから見つめるパイロットがいた


「世界の終わりですか……思えば、優しく、残酷な世界でした」

NANE:────────
コード:Flys.1 白烏
機体名:CRAVWYNG




Flys──
理想郷シャンディアの守護者でもある、戦闘部隊
そのNo.1を持ちながらも、白烏は証明
それのため任を半分捨て、渡り鳥と戦い──敗北した


渡り鳥に破れ、今やただの「烏」に戻ったF.1は
与えられた名/ドックタグと共に崩れ行く世界を振り返りえる

終わりは必然だったのかもしれません

籠の外の渡り鳥を、見捨てなくないからと籠に勝手に入れた時点で……
いや、それで崩壊する時点で、もっと前からこれは決まっていたのかもな。


弱き者がいる支配/規定に満ちたこの理想郷は、そもそも弱者を気にしなければ生まれなかった

犠牲なきを目指し、生まれた犠牲少なきこの世界は、規定を目指しながらも流れ者を許容しました

流れつく未知すら支配し、犠牲無きを目指したその在り方は

当たり前のように、可能性により崩壊した……



そんな、何でもない独り言を

気づけばやけに色白くなった愛機につぶやきながら
烏はふと、空を見上げた────

そこには籠から飛び立ち、空に輝く流れ星となった渡り鳥と
星を道標に多くのモノが外へと渡って行く光景が写っていた


その中には死ぬべきと決められ、死んでいくはずだったモノたちも居る

それらが織りなす星空は、烏にとってずいぶんと懐かしい光景で...


白烏は名前通り探していた
成し遂げる物、証明する者を────




「──私も行きますか」

烏の中の何か────

渡り鳥に破れてもなお、燻りのそれが

燻りのまま、静かに燃え起こる


烏はそれに衝き動かされるように、機体を動かそうとした


「まずは貴方を治さなければ、CRAVw……
いえ、"STAR Window"。前の名は流石に申し訳がない」

「それはここで頂いた名前ですからね」


作業を進めながら、烏はふと
何かに違和感を覚え、それに気がついた

(ああ……)

「……行儀のよい振りは辞めるか」

(もう白烏ではないのだから)


烏の猫かぶり。さして好みではなかった、敬語を使う

それは不思議なことに、ずいぶんと楽しく愉快で
気づけば長いこと猫を被っていた

少しの寂しさの中、損傷箇所を確かめながらも
それを思い出すと烏は不思議と笑みが零れそうだった


「色も塗り替えるか、元の黒に。ドックが空いてるといi…」


烏はふと、気づく。

損傷箇所を確かめ終え、武器を拾おうと開いた愛機の手から落ちる、白い羽...…

烏が急いで空を見上げると、飛んでいたのは──



ああ、なんだ。いたのか。

お前も白烏の名、気に入っていたのか?改めてよろしくな「STAR Wing」



そうして、烏は再び飛び立った────

その黒烏の中には、楽園にて
与えられ手に入れた白と
最後に、愛機と見つけた白が確かにあった


楽しかったのだ。この理想郷は──────






最善が崩され、最高あるいは最低の結果が理想郷に齎された

あらゆる世界の基底となるべき世界は、悍ましき未知のモノを見た

あらゆる世界の規定となる世界は、当たり前で既知のことを照明した



     〈イレギュラー〉



破滅にすら向かう欲望

運命すら歪める黒い星

生物とは旅人であり、旅人とは星を道標にするもの
人々を引き込むその星は

暗闇の中でなお、黒く輝く凶星/Blackhole
あらゆる支配/常識を破り、崩壊させるもの



規定できぬからこそ、「イレギュラー」である









・Flys

Flysとはシャンディアの戦闘部隊の一つであり、その中でも最高戦力である。
また、Flysとは理想郷を守る守護者であり、侵略者である。



・白烏

コード:Flys.1 白烏
機体名:CRAVWYNG 

白烏はかつて、STAR Windowを駆る、烏と呼ばれる傭兵であった
ある時、シャンディアの管理者からスカウトを受け「Flys.1」となった烏は
証明する者として「白烏」と命名され、機体には「CRAVWYNG」の名を送られた。

本人としても、その名に大きな不満はなかった
烏は探していたのだ。成し遂げる者、証明する者を

だが、案外白い烏は近くに居た
それに気づく余裕のある世界。余裕とは、遊び。遊びとは実に良いものである



CRAVWYNG

二脚型/中量機
左手:シールド、左肩:レーザー
右手:アサルト、右肩:ミサイル
右腰:ブレード

左手にシールド、右手にアサルト
その構成は普遍的で、瞬間火力をミサイルに頼っている短所以外、特筆する点のないこの構成は

撃てばシールド、離れればレーザー、近づけばブレードと
同じ規格ならば一つ一つは相手に上回られることがあれ
こちらもまた相手を上回る構成になっている

そしてFlys.1が駆るとき、それは確かな王道に変わり
その二脚は、地も、壁も、敵をも駆る走り烏の脚となる
そして翼は示すのだ。敗北も勝利も


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